2019年4月1日から働き方が変わります。
2018年6月29日、雇用対策法、労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム労働法(パート法)、労働契約法、労働者派遣法の労働法の改正を行う「働き方改革関連法案(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)」が可決・成立しました。
これに伴い、零細・中小企業から大企業まで、人事担当部署をはじめとする管理部門はもちろん、経営者から働く人たちすべてが、各種改正法施行に向けて、さまざまな準備や働き方の見直し、管理の仕方の見直しなどをする必要が出てきました。
とはいえ、改正される内容の中には、具体的な運用ルールやガイドラインが示されていない部分も数多くあります。「労基法が改正される」との報道に触れたあと、「結局、自分の働き方はどう変わるのか?」「具体的にどんな対応が必要なのか?」「この場合はどうなるのか?」と、悩む方は多いことでしょう。そこで、ここではとくに注意すべきいくつかのポイントをまとめました。
※改正労基法に関する運用のガイドライン等は逐次、厚生労働省や労基署から発表されると考えられます。最新の情報をチェックし、必要に応じて社労士等に相談されることをおすすめします。
各改正の主なポイント
内容 | 概要 |
---|---|
時間外労働の上限規制 | ・70年前(1947年)に制定された「労働基準法」ではじめての大改革 ・時間外労働の上限を原則月45時間、年360時間とする ・特別条項は年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度とする |
勤務間インターバル制度の導入(努力義務) | ・前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保を行う |
年次有給休暇の年5日取得を義務付け | ・1人1年あたり5日間の年次有給休暇の取得を、企業に義務付ける |
月60時間超の時間外労働に対して割増賃金率を引き上げ | ・大企業では平成22年度から施行されていた割増率(25%→50%)を中小企業にも適用する |
労働時間の状況の把握の実効性を確保 | ・働くひと(管理監督者含むすべての労働者)の健康管理を徹底するため、客観的な方法による労働時間の把握を義務化する |
フレックスタイム制の見直し | ・フレックスタイム制の清算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長する |
高度プロフェッショナル制度の創設 | ・前提として、働く人の健康を守る措置を義務化(罰則つき) ・対象を限定(一定の年収以上で特定の高度専門職のみが対象) |
長時間労働者の医師面接指導の見直し | ・事業者は、産業医が適切な指導をするために長時間労働者の状況や労働者の業務の状況などを情報提供する責務を負う ・事業者は、産業医等が労働者からの健康相談に応じるための体制整備に努めなければならない |
限度基準適用除外見直し | ・以下、上限規制適用の猶予・除外する事業・業務についての見直し 自動車運転の業務、建築事業、医師、鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品等の研究開発業務 |
参考 働き方改革 ~一億総活躍社会の実現に向けて~(厚生労働省)
それぞれ、大企業と中小・零細企業では施行日が異なりますが、2019年4月から順次施行され、2024年4月をめどに国内のすべての企業はこの項目に定められた内容を遵守するよう義務付けられています。
労使が取り組むべき5つのポイント
項目 | 概要 |
---|---|
時間外労働の上限規制 | ・時間外労働の上限を原則月45時間、年360時間とする ・特別条項は年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度とする |
年次有給休暇の年5日取得義務 | ・年10日以上の年休付与者は、毎年、時季を指定して年5日の取得を義務とする |
フレックスタイム制の見直し | ・フレックスタイム制の清算期間の上限を1ヶ月から3ヶ月に延長する |
労働時間の状況の把握の実効性確保 | ・現認や客観的な方法による労働時間の把握を義務化する (管理監督者含むすべての労働者) |
勤務間インターバル(努力義務) | ・前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保を行う |
上記の項目をはじめ改正労基法を遵守するには、明確で正確な時間管理をしくみ化させることが重要です。
ポイント1. 時間外労働の上限規制
これまで、残業時間は「原則月45時間かつ年360時間」とされてきましたが、法的な強制力はなく、労使合意による「特別条項」を設ける(「特別条項付36協定」)ことで、実際には上限なしの残業が可能となっていました。これが、2019年4月(※1)より、次のように上限が法律で定められるようになります。
- 残業時間の上限を原則(※2)として月45時間・年360時間とすること(法律により明確化)
- 臨時的な特別の事情があり労使が合意した場合(特別条項)でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)を超えてはならない
- 月45時間超ができるのは、年間6ヶ月まで
2019年4月より、上記に違反した場合には労基法違反として罰則の対象となります。
(休日労働時間を含めて月100時間を超えた場合又は、2~6ヶ月間中の月平均が80時間を超えた場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)
違反を防ぐためには、正確な労働時間の記録と管理が不可欠となります。また、過去のデータをもとに、繁忙期を予測して年間どのくらいの総労働時間になるか、推定することも法令遵守を徹底する上では重要だといえます。
※1 中小企業は2020年4月からの適用となります。
※2 特別条項でその上限を上げることは可能です。1年単位等の変形労働制度を採用している場合、必ずしも週40時間・年360時間が上限とはなりません。
時間外労働の上限規制のシミュレーション
月 | 残業時間(休日労働を含む) | 評価 |
---|---|---|
4月 | 70時間 | 4月は70時間なのでOK 特別条項1回目 |
5月 | 80時間 | 4~5月の平均は75時間なのでOK 特別条項2回目 |
6月 | 70時間 | 4~6月の平均は74時間なのでOK 特別条項3回目 |
7月 | 100時間 | 4~7月の平均は80時間なのでOK 特別条項4回目 特別条項(月100時間未満)に抵触 |
8月 | 85時間 | 4~8月の平均は81時間なのでNG 特別条項5回目 残業時間の法律上限(年360時間)を超過している |
9月 | 65時間 | 4~9月の平均は78.33時間なのでOK 特別条項6回目 |
10月 | 45時間 | 5~10月の平均は74.17時間なのでOK |
11月 | 70時間 | すでに特別条項の上限を超えているためNG |
12月 | 60時間 | すでに特別条項の上限を超えているためNG |
1月 | 60時間 | すでに特別条項の上限を超えており、年間720時間超のためNG |
2月 | 48時間 | すでに特別条項の上限を超えているためNG |
3月 | 80時間 | 特別条項も法律による残業時間の原則も超えているためNG |
年度末や年度初め、その他の繁忙期は徹底した時間管理が求められます。
最も望ましいのは法定労働時間内に仕事が終わることですが、繁忙期を見越して年間の残量時間を計画し、時間管理を行い都度「法律の上限のいずれかに抵触していないか?」を確認し続けることが不可欠です。
ポイント2. 年間5日の有給休暇取得を義務付け
これまでは、有給休暇の取得は働く人たちの申し出によって決められてきました。
休むタイミングを個人の裁量で決められるというメリットはありますが、一方で「周囲のひとたちが忙しそうにしているのに休むのは心苦しい」「そもそも自分の有給休暇の日数がどのくらい残っているのか分からない」などにより、休めないという弊害がかねてより指摘されてきたのも事実です。
また、「もしもの時のために有給休暇を取っておいたが、消化しきれなかった」というひとも多いと思います。
そこで、今回の改正では、年間10日以上の有給休暇が付与されるひとに対して、雇用主や管理者側が休みの希望日を聞き、それを踏まえてあらかじめ休む日を年5日間、指定することになりました。(※)
これにより、これまで以上に確実に有給休暇が取得できるようになると期待されています。
有給休暇取得日を決めるにあたり、企業側は管理簿を作成する義務を負います。
もし、それがない場合は罰金の対象になるため注意が必要です。
また、日程の調整にあたっては、希望が重複する日程があることが予想されます。不公平感が出ないように配慮することも欠かせません。
※ただし、自ら申し出て取得した日数や、労使協定取得時季を定めて付与された日数(計画的付与)については5日から控除することができます。
ポイント3. フレックスタイム制の見直し
フレックスタイム制は、清算期間の上限が1ヶ月から3ヶ月に変更になります。
これにより考えられる懸念点は大きく2つあります。まず、各月の労働時間の長短の幅が大きくなる場合が考えられること。次に、働くひとたちが自分の時間外労働の時間数を正確に把握することが難しくなることです。
管理側はこの2点に注意を払う責務を負い、とくに、1ヶ月毎の各期間が1週間当たり50時間を超えないように配慮することが欠かせません。なお、これを超えるとその月で割増賃金を支払うよう定められている点も無視できません。
厚生労働省労働基準局が2018年9月7日に出した通達によると、「使用者は、対象労働者の各月の労働時間数の実績を対象労働者に通知等することが望ましい」とあります。
今はまだ義務ではありませんが、それができるしくみを構築しておくことは、ガバナンスを高めることに繋がります。
①これまでは法定労働時間を超えた分は割増賃金の対象となりました。しかし、改定により3ヶ月の平均で法定労働時間以内となれば、割増賃金の支払いとはなりません。
②これまでは所定労働時間まで働いていないため欠勤となりました。しかし、6月に働いた①を充当するため欠勤とはなりません。
ポイント4. 労働時間の把握の実効性確認
時間外労働の上限規制や年次有給休暇5日間の取得義務、フレックスタイム制の見直しに共通した課題のひとつは「いかに労働時間を正しく把握できる状況を整えられるか」ということです。
労基署も、ここについてはとくに注意して監査を行うと想定されます。
実際には労働した時間を改竄したり、ごまかしたりできないようにしくみ化されているかどうかは、労働管理に関する社内データの正当性が担保されているかどうかと同義です。
たとえば、表計算ソフトや紙のタイムカードの場合、後から修正することが可能なため、労働時間の把握の実効性は低いといえます。また、紙の勤怠管理簿などをデータ化する際に手入力しているとすると、ケアレスミス等がもたらすデメリットが懸念されます。
そうした勤怠管理をしている場合は、抜本的な改善が強く望まれます。
ポイント5. 勤務間インターバル
勤務間インターバルとは、終業・退社の時刻と、翌日の出社の時間の間に、一定時間を空けるように促すものです。
たとえば、通常は9時から18時までが勤務時間だけれども、前日に23時まで残業をしていた場合、11時間のインターバル(空白時間)をおいて出社時間の9時より1時間ずらした10時に出社するようにする、といった対応を制度化するものです。
この制度を導入するにあたっては、下記のステップを踏む必要があります。
- 労使間で導入するかどうかの話し合いを行い、決定する
- 運用ルールを設計し、就業規則に定める
ただし、この制度については、次のような疑問も挙がっています。
- 始業時間をずらしたうえ、残業もあり、定時を超えた時間まで働くことになったら?
- 数日間インターバルにより始業時間がズレていった場合はどうなるのか?
- 通常の始業時間から実際の開始時間までの間の差を労働時間とみなすのかみなさないのか?(労働時間をどこからどこまでと定めるか?)
これら実際に運用するにあたって不明瞭な点については、今後あらためて労基署や厚労省からガイドラインが出されるのではないかといわれています。
参考
https://teamspirit.app.box.com/s/8mikn298bxznn7rlfnlinf91f1rfs6zh