会社帰りに「最愛の子」を観てきました。
3歳で誘拐された息子は3年後、よその子となって見つかった。
愛する我が子を、その愛を、親は取り戻すことができるのか?
というのがテーマ。感動ものというよりは社会派の映画です。
中国で実際に起きた事件がもとになっています。
父親の思いが3年前に誘拐された我が子を取り戻した
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110215/218441/?rt=nocnt
よくある「生みの親」と「育ての親」どちらを選ぶ、といったような単純な話ではなく、中国が抱えるいくつもの問題点を織り込んだストーリーになっています。
最愛の子 あらすじ
中国・深圳(しんせん)でインターネットカフェを経営するティエンの息子、ポンポンがある日姿を消す。
父親は警察に捜索願を出すが、「失踪後24時間は事件として扱えない」として動いてくれなかった。ティエンは自力で捜すがポンポンはどこにもいない。そして、警察署で見た防犯カメラの映像に、駅で何者かがポンポンを連れ去る姿が映っていた。
それから両親は息子を見つけ出そうとテレビやインターネットで情報提供を呼びかける。しかし寄せられる情報は報奨金目当ての詐欺やいたずらばかり。中には脅して金をせびろうとする人間まで…
ポンポンがいなくなってから3年あまり。ティエンの携帯にポンポンらしき男の子が安徽省にいるという情報が入る。すぐに両親は安徽省(あんきしょう/中国東部)の農村へ。そこでついに6歳になったポンポンを見つける。しかし、誘拐当時3歳だったポンポンは実の両親のことをまったく覚えていなかった。
犯人は既に死亡
ポンポンにとっての母親はホンチンという「育ての親」だった。ポンポンを誘拐した犯人は既に死亡しており、その妻ホンチンが我が子のように育てていた。ホンチンは「自分が子どもを産めない身体だから、夫が深圳の女に産ませて3年前に連れてきた」と警察に説明した。ホンチンは夫が子どもを誘拐してきたことを知らなかった。
実の両親のもとにポンポンが戻ってから半年、ポンポンは今だにホンチンを母親と思い「家に帰りたい」と言う。両親は必死に我が子の愛情を取り戻そうとしていた。そしてホンチンもまた、我が子を失った母親として、深圳へと向かう。「生みの親」と「育ての親」の二つの想いが交錯する…
中国では年間20万人の子どもが行方不明に
日本だと100件程度ですが、中国では児童誘拐事件が20万人規模だといわれています。(政府の公式発表は1万人)
原因は一人っ子政策と経済格差
こうした子どもの誘拐は単なる事件ではなく、中国国内の根深い問題を内包しています。人口が爆発的に増加した中国では1979年より「一人っ子政策」を実施。原則として夫婦1組に対し子どもを1人までとし、違反した夫婦には罰金が科せられました。
これにより、働き手や跡継ぎとなる男児の価値が高く、一人目の子どもが女児であった場合は養子をとるケースが多くなりました。近年の経済成長の裏側では都市部と農村部での経済格差が大きくなっており、特に農村部では男児を求める親が多いようです。
そういった実情から人身売買が大きな市場となり、この映画で扱われたような誘拐事件が深刻な社会問題となっているのです。
一人目の死亡証明書がなければ二人目の出生届が出せない
ポンポンの両親が参加した、行方不明の子どもを持つ親たちが開催する「行方不明児童を探す会」のリーダー、ハン。この会のポリシーは「新しく子どもは作らず、いなくなった子を探しましょう」。しかし自分の子はいくら探しても見つからず、後から参加してきたティエンの息子、ポンポンが先に見つかったことで、探すことに疲れが見え始めてきます。
そんな折、ハンは妻が第二子を妊娠していることを知ります。役所に出向くと出生届を提出するとともに、第一子の死亡証明書を出してください、といわれてしまいます。ここでも「一人っ子政策」の弊害が見えてきます。人口増加に歯止めはかかったものの、労働力欲しさの誘拐が増え、またこういった特殊な事例での問題も多発しているのです。
農村部で今も残る男尊女卑
育ての親ホンチンは、夫に「お前は産めない身体だ」といわれ、それを信じてきました。しかし物語の最後で妊娠が発覚。問題があったのは実は夫の方でした。農村部でいまだ平然として存在する男尊女卑の問題についても浮き彫りにされています。
一人っ子政策の廃止を発表
昨年10月、中国政府は、一人っ子政策を廃止し、あらゆる夫婦が子どもを2人持てるようにすると発表しました。中国でも急速に高齢化する社会と、縮小する労働人口による経済成長の低下を食い止めるなどの理由からのようです。
子どもを「買う」側も重罪に
この映画の反響で、誘拐された子どもを買う親も重罪とする刑法改正が実現しました。
その他の感想
最愛の子は、中国が抱える様々な闇を浮き彫りにする映画だと思います。
最近は「爆買い」がやたらとクローズアップされていますが、その裏には厳しい経済格差があることも忘れてはなりません。
最後に、この映画の主役、ヴィッキー・チャオ(育ての親の役)は全編ノーメイクで出演しています。
あとほんとうにどうでもいいことですが、ハン役の俳優が北島康介に似ていました。
ちなみにこのハンのモデルになった方は、今も自分の息子を探しているようです。見つかることを願っています。
奇しくも明日の金曜ロードショーでは「八日目の蝉」が放送されます。