あなたがそのお店で商品を買う理由はなんだろう。価格? 近くにあるから? いつもそこで買ってるから? ツケが使える? それともたまたま立ち寄っただけ?
先日勤務先の社長にあることを言われた。
「なんで安いのに売れないんだ!?」
うちの会社の通販サイトでは実に多くの商品を売っている。その中に社長自ら商品選定をしたものも含まれている。
具体的にどのような商品かは濁すが、日本で一般的に出回っている商品と類似した商品を海外の商社から仕入れて販売する、というものだ。
分かりやすい例を挙げると、イオンのトップバリュやセブン&アイ・ホールディングスのセブンプレミアムを思い浮かべてほしい。
商品開発は販売元が行い、モノの製造は大手メーカーに委託するファブレスという手法だ。こういった過程で生まれたものはPB(プライベートブランド)商品と呼ばれている。
▼セブンイレブンで売られているポテトチップス。パッケージはセブンイレブンのオリジナルだが、製造者や問い合わせ先はカルビーとなっている。
先の二社はもともと知名度があることもあり、事業としては比較的成功している。
大手の企業がそれで成功しているのだからという安直な理由でうちの社長もそれを目指すことにした。運良く海外の大手商社との取引が可能になり、社長は張り切って商品選定を始めた。
当該の商社が発行している辞書のように分厚い商品カタログから商品を選定、といってもデータ分析やこれまでのNB商品(ナショナルブランド商品=大手メーカーの商品)の販売実績から選んだのではない。完全な社長の「カン」によるものだ。
これだけでも笑いものだが、なんとその商品選定を社長と、社長と大の仲良しの外部コンサルの二人だけで行ったのだ。両名とも通販の業務経験は全くなく、卸の営業経験しかない。
ネット通販における商品企画で最も重要なのはキーワード選定だ。その商品あるいはその商品が属する商品分類がネット上でどれくらいの需要があるのか、それを調査することから全てが始まる。商品開発における市場調査といってよい。
ちなみにそのキーワードが検索エンジンで何回検索されているのかや、関連するキーワードがどういったものかについては、Googleのツール「キーワードプランナー」で調べることができる。
先の二人はそういったネット上での検索需要などお構いなしに、自身のこれまでの営業経験とカンだけを頼りに、みるみる二人だけの「きっと売れるだろう商品リスト」を作っていった。
そして間もなく商品の発注が決まり、入荷も完了し販売できる体制となった。しかしこれが全く売れない。
そりゃそうだ。いくら日本国内のNB商品と類似するとはいっても、日本では全くの無名メーカー品をただ仕入れただけのもの。それどころかうちの会社自体世間では全くの無名。無名の会社がこれまた無名の海外メーカーの商品を販売している。ただそれだけのこと。イオンやセブン&アイのPB戦略が成功したのは、もともとの企業認知度が高かったからに他ならない。
商品に付加価値があれば別だが、ただ安いということだけがメリットの商品に消費者が興味を持たないのは当然だろう。
二人によれば安いんだから消費者は買うはずだ!という自分たちの勝手なイメージが絶対であり、実績を上げていない私を含む現場の努力不足ということらしい。
経営者というのはどういうわけか、消費者は安いものだったら喜んで何でも買うという意味不明の幻想を抱くものらしい。私が以前働いていた会社の社長もそうだった。売上実績のあるNB商品の同等品を次々に海外のメーカーで作らせ、PB化を押し進めていった。その結果、安さだけが顧客満足となっていった。
これはなにも私の周りだけで起きていることではない。今から10年以上前、マクドナルドが平日に限りハンバーガーを通常価格から半額の59円で売り出したことが大きな話題となった。しかしその結果は悲惨なもので、ブランドイメージの失墜と赤字転落を余儀なくされるという結末に至った。
一度価格を安くしてしまうと消費者の目にはそれが焼き付き、もっと安く、もっと安くと貪欲に求められ、以前の価格に戻すのは難しくなる。
それが「企業努力」というものじゃないか、企業は稼いでいるんだからお客さまに還元しろよ、と思うかもしれないが、この帳尻合わせの皺寄せはめぐりめぐって結局、消費者のところに戻ってくる。
企業の業績は伸びているのに給料が上がらないのはこれが原因だ。薄利多売を繰り返した先には誰も得をしない現実が待っているだけ。
モノの価格を安くしろ、サービスを良くしろと声高に叫んでいる方々はもう一度よく考えてもらいたい。そういった要望は自分たちの労働環境や賃金に跳ね返ってくる。企業は求められたものを何でも出せる「ドラえもんのポケット」ではない。必ず消費者にツケが回ってくる。
▼単行本「ドラえもん のび太とロボット王国(キングダム)」より
最後に余談だが、経営者が安い商品だけを仕入れてきて売るだけのビジネスモデルを推進するようなら、さっさと逃げ出すことをおすすめする。そういう経営者は長く事業を続けるつもりはない。自分の代だけ安泰なら問題ないという思考の持ち主だ。
社長さん、あなたは安いからといって100円ショップで買ったネクタイを締めますか?
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