こんにちは、しんこー(@yakudatsujoho)です。
普段は毒にも薬にもならない記事ばかり書いていますが、今回は真面目なお話をしようと思います。
本日、十三の第七藝術劇場(通称:ナナゲイ)でドキュメンタリー映画「BRAKELESS JR福知山線脱線事故」を観てきました。
2005年4月25日に起きたあの痛ましい事故をテーマにした作品。ロンドン在住の映画監督、三宅響子氏がNHK・BBCとの共同で制作し、イギリスでも放送されました。(※制作は2014年4月)
◆映画リーフレット 表
◆映画リーフレット 裏
JR福知山線脱線事故とは
2005年4月25日、宝塚発同志社前行きの快速電車(7両)が脱線し、マンションに衝突。乗客106人と運転士が死亡、562人が重軽傷を負った。
映画のあらすじ
作品では、実際に事故車両に乗っていた方やJRの元運転手・車掌、今もなお事故の後遺症に苦しむ方々へのインタビューなどをもとに、事故の原因はもとより日本社会が抱える問題点を浮き彫りにする内容となっています。
当時のニュース映像や事故現場の様子、遺族がJRの上層部に詰め寄る姿など、これまでTVで何度も目にしてきた映像が映り、事故の悲惨さを改めて実感しました。
また、所々に被害者の一人であるイラストレーターの小椋聡さんが制作したイラスト(アニメ)も出てきます。
洗濯機の中にいるようだった
事故の被害者の方のコメントと小椋さんのアニメーションによって事故の瞬間が生々しく語られます。現場の右カーブは半径300mで制限速度は時速70km。そこへ時速約116kmで進入し、1両目が外へ転倒するように脱線。続いて後続車両も脱線。
脱線の瞬間車体が大きく傾き、まるで洗濯機の中にいるように座席や手すり、網棚、果ては人の身体が遠心力によって車両の中で振り回される様子が描かれています。
直前の駅でオーバーラン
各種メディアで報道されている通り、直前の停車駅である伊丹駅で所定の停車位置を70m程超過(オーバーラン)しており、その遅れ(※オーバーランした後車両を後退させた)を取り戻すために運転士が急いでおり、通常よりも速い速度を出していました。乗客もそれを感じていたと証言しています。
オペレータ「なんで遅れているの?」
当時は電車が遅れている場合、府内にあるセンターから「なんで遅れているんですか?」と運転士に連絡が入っていたという。運転士は前を見て安全運転を行わなければならないのは当然。今では考えられませんが。ちなみに前述のオーバーランの他に別の駅で駆け込み乗車もあり、運転士がかなり焦っていたとの情報もあります。
引退した運転士の方のコメントで、現役の時にそんな連絡が入ったら「今運転中!」と言って連絡を切っていたそう。本来運行中は運転士が一番権限があるはず。現場無視の考え方。そんなJRの体質も作品の中で語られます。
過小申告を依頼
運転士は、事故直前に起こしたオーバーランを車掌に過小申告するように依頼。当時は軽微なミスでも懲罰的な教育を繰り返す「日勤教育」と呼ばれる体制が問題とされました。
とにかく早さを追求しろ
元JR職員のコメント「ラッシュ時間帯の大阪駅ですら所定停車時間が15秒。その時間で乗り降りを完了させるのは無理ですよ」
赤字解消のための民営化
莫大な赤字を抱えていた旧国鉄。1987年、民営化によってJRが発足。民間企業として新たな出発を試みます。
JR西日本は私鉄との競争に勝ち抜くため、スピードを求めます。年に2・3回のダイヤ改正があり、その度運転時分が短くなり、速度を上げなければその時間に間に合わなくなっていきます。
営利企業として
90年代始めにバブル経済が崩壊。JRも例外ではなく、生き残りの為の効率主義を進めます。前述でも少し触れましたが、JR西日本には「ダイヤ通りの運転をしなかった場合、罰則対象となる」などと、目に見えるところで人格攻撃をするような攻撃を行い、脅しを始めました。事故を起こした運転士も、以前にミスをして長時間の再教育を受けていたということです。
乗客「定刻通りは当たり前」
JR職員が、ダイヤが乱れた時の乗客からの苦情の殺到を過度に恐れていたとの情報もあります。
映画の最後で被害者の方は「時代が求めていることと、人ができることのバランスがとれていない」と述べています。
上映後のトークショー
上映後には、事故車両に乗っており、負傷者と家族等の会にも参加されている坂井信行さんのトークショーがありました。
この日たまたま映画のプロデューサー(? ※間違っていたらすみません)の方が観にきておられたということで、急遽支配人に代わりインタビュアーとして聞き手を務めることになりました。
坂井さんは事故当時の記憶が曖昧で、電車の衝突によって現場のあったマンションの地下駐車場まで落ちていたところを助けてくれた大学生の方や、その後折れた足で歩いていたことなども覚えていないそうです。
メモリアルウォーク
「負傷者と家族等の会」主催、負傷者の方々が事故現場周辺を歩く「メモリアルウオーク」が明日行われます。今年で7回目だそうです。
事故から11年になりますが、今回の映画およびトークショーで改めて事故の重大さを捉え、風化させてはならないという思いから記事にさせて頂きました。
事故の真の原因は?
で、ここからが本題。少々文章が荒れますがご了承を。
これまで各メディアでは、現場の人間でも上の指示がなければ動けなかったり、ミスをすると「日勤教育」と称して懲罰的なことをさせるJRの体質なんかを批判。そういった環境が運転士を追い込んで事故が発生してしまったということを報じていますが、個人的にはそれだけが原因ではないのではないかと。そもそも、そういったJRの体質を生み出してしまったのは乗客、利用者側ではないかと思うんです。
追いつめられた運転士
JR職員はダイヤが乱れた時の乗客からの苦情を過度に恐れている、ということを先程書きましたが、それは鉄道会社全てにあてはまるといえます。運転士や車掌に対する暴行なんかも近年増えてきているようですし。
「時間に遅れた」「ドアが開かない」などの理由で職員がケリを入れられてホームに落ちそうになったなんて話も。
事故車両の運転士もこういったことを恐れていたんじゃないかと。遅れたりしたら客にも上司にも怒られる。私もサラリーマンをやっているのでよく分かりますが、客からのクレームより、身内である会社や上司から詰められる方がつらいんですよね。
オーバーランした後「詫びろや!」
事故の直前の停車駅である伊丹駅でオーバーランした後、電車がバックしてから再出発した際、乗客が天井にあるスピーカーに向かって「詫びろや!」と叫んでいた(※もちろんマイクはないので運転士や車掌には伝わっていませんが)という話が、劇中の中で被害者の方がおっしゃっています。
事故の原因をつくったのは利用者側にある
そういったことを踏まえて感じるのは、事故の根本的な原因をつくったのは利用者側にあるのではないかと。遅れることは許されない、定刻通りに到着・発車するのは当たり前といった過度のサービス要求が根本にあるのではないか。
あともうひとつ、関西人特有のせっかちな地域性も。
私自身は地方から出てきて10数年関西に住んでいますが、赤信号でも平気で渡ったり、歩道を猛スピードで自転車で疾走したり、遮断機をくぐってまで踏切を渡ろうとするマナーの悪さに未だに慣れることはありません。
関東から赴任してきた私の上司は「大阪は人情の町と聞いていたが全然そんなことはなかった。電車から降りてくる人を待たずに割り込んで乗り込もうとするなんて」と嘆いていました。
電車が遅延することでその間にホームに人が溢れ、乗り降りに時間がかかり、さらに遅延が発生する、ということが問題なのであれば、企業側はフレックスタイム制を導入してもいいんじゃないかと。そもそも同じ時間に会社を開けなさいなんて法律はないんだから。
「脱線事故が起きたのは我々利用者のマナーの悪さが鉄道会社を追いつめたせいだ。ならば混雑しないように時間をずらして出勤するようフレックスタイムを導入しよう」なんて会社は私が知る限り一社もありません。
企業だけに責任を押し付けるな
どうしてもこういった事故があった際は企業側の責任を追求する動きが活発ですが(震災の後の原発事故も含めて)、それらを利用する消費者にも責任意識を持ってもらいたいのです。過度なサービスは巡り巡って自分に返ってくるということに。安売りが常態化して賃金の低下に繋がるのもそうですね。
みんな、もう少しゆとりを持とうぜ
そもそも時間に遅れたからといった理由で命を取られることはないんだから、そんなにピリピリしなくてもいいのでは? 関西の人っていつも何をそんなに急いでいるんですかね?
いらち(せっかちという意味)な性格・地域性を変えない限り、同じような事故がまた発生するんじゃないかと心配です。
※2016年4月24日、下記記事を追記しました。
JR 人的ミスの懲戒を対象外に
翌日の読売新聞の記事。事故から11年経った今年の4月より、ようやくJRでも事故やトラブルなどを招いた運転士の人的ミスについて、原則、懲戒処分の対象から外すことにしたとのこと。遅過ぎでしょ。
「『緊張感が失われる』と消極的な事業者も多く」となっているあたりが、企業が利用者のクレームにビクついている様子がうかがえます。そんなに消費者の目を気にしなくていいと思うのですが。